2004年11月 アーカイブ
Look Around
突然英語の見出しで入りましたが、この言葉は私が高校のときの体育教師である登(のぼり)先生がよく言われていた言葉です。日本体育大学サッカー部出身の超体育系サッカーばかの先生でした。サッカーが11人で行うスポーツのため11という数字が好きで、なぜかいつも腕立て伏せの回数は中途半端な11回であった。Look aroundとは見渡すという意味で、登先生は「常に周りを見渡しておかなければいいパスは出せないし貰えない、皆がlook aroundしていることによって始めていいサッカーができるのだ。」といつも言われていた。結局サッカーの話しかい!ってぐらいサッカー漬けの体育の授業であったが、この言葉はサッカー以外のことにも使え、今でも私の中で名言として残っている。
先日も職員に話しをする際、この言葉を使ったばかりである。当院では、それぞれの職員が自分の部署の仕事に関してプロ意識を持たせているが、お互い違う部署の仕事をも把握しておき、他部署が忙しいときに放って置くのではなく、すかさずヘルプに入れるようにしている。当然それぞれの部署の資格保持者にしかできないこと以外は、他部署の職員にそれをさせはしないが、資格がなくてもできることでうまくヘルプし合うことによって能力の均一化を図れ、少人数で仕事をこなすことができる。この際大事なのは、お互いがlook aroundによって常に周りの状況を把握し、相手から声を掛けられなくても自ら必要に応じて動くことなのです。
また、look aroundは井の中の蛙にならずに広く世間を見渡しなさいということにも使える。誠に残念なことにこのコラムを書く前日にイラクで武装グループに拉致されていた香田証生さんが遺体で発見された。再び自己責任だとか政府の責任だとかといった批判や自衛隊の駐留問題が出てきている。このようなくだらない議論をする前に、なぜこのように若者が戦争をしている地に無防備でふらっと行ってしまうのかを考えなければならない。つまり、井の中の蛙大国日本は、原爆を投下されたにもかかわらず戦争の悲惨さや怖さを忘れてしまっている。また、世界で何が起こっているのか中東情勢はどうなっているのか分かっていない。ましてやイスラエル・パレスチナ問題について語れる人が日本にどれだけいるのだろう。メディアは、もっと政府がイラクに行くことを厳しく禁止して注意を促しておかなければならなったと批判する暇があれば、単に視聴率稼ぎだけの幼稚な番組ばかりによって日本国民に世界のことを伝えきれておらず、井の中の蛙大国日本を作り上げてしまったことを反省すべきである。戦争とはどれだけ危険か中東問題はなぜ終わらないのかなど、国民を少しでもlook around、世界に目を向けさせるようにしなければならない。メディアの力は本当に大きいということをもっと自覚すべきだ。香田さんはlook aroundしようと出向いたのかもしれないが、その前にメディア教育によってlook aroundできていれば、わざわざ戦地イラクに行くことはなったかもしれない。
すいません、なんだか最後は重~い話になってしまいましたが、熱血体育教師からスポーツを通じて教え込まれたこの言葉は今でも私の頭の中に残っており、いろいろな意味で役に立っています。やっぱスポーツっていいですねぇ~。えっ?無理やりでしたか!?(笑)
第1回スポーツ外傷講義:膝前十字靭帯損傷
コラム欄で定期的に、一般の方にも分かりやすくスポーツ外傷講義を掲載していくことにしました。
初回は、膝前十字靭帯損傷についてです。
膝前十字靭帯とは:
膝関節内の靭帯で、脛骨(スネの骨)の前方から大腿骨(フトモモの骨)の後方へ斜めに走行しています。脛骨が前方へズレたり、膝が内側へ捻るのを抑えています。
どのような状態で切れてしまうのか:
相手プレーヤーと接触して膝に外力が直接加わったときや、ジャンプからの着地を失敗して捻ったり、方向転換で踏ん張った際に捻ったりすることにより受傷します。
(例)*ラグビーで外側からタックルを受けた。
*バスケットのジャンプ後着地に失敗して捻った。
*サッカー中相手プレーヤーをかわすのにステップを踏んだ瞬間ガクッとなった。
切れるとどのような症状ですか:
受傷瞬間よりプレーは続行できないぐらい痛いです。なかにはブチッと音がしたという選手もいます。この靭帯は膝が伸びきるときや深く曲げていくときに緊張しますので、その角度の範囲で動かすと非常に痛く、受傷した選手は膝を伸ばしたり曲げたりしようとしません。また多くは、膝が3時間以内に腫れてきます。この腫れは、靭帯が切れたことにより出血し、その血が膝の中に溜まるためです。前十字靭帯損傷の約80%は出血で腫れると言われています(膝をケガしてすぐ腫れた方の約80%が、前十字靭帯損傷であるということではないのでご注意)。
現場での対処とその後は:
受傷時の処置は、ほとんどのケガに共通していることですが、それ以上ケガの度合いをひどくさせないために、RICEを行います。Rest(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)ですね。安静の助けとして、もしあれば副木などでの固定をできるとベターですが、固定角度は少し膝を曲げた位置が選手は楽です。
現場での処置を行った後は、整形外科のなかでもスポーツ外傷を専門に診ることができる病院・診療所に行くことお勧めいたします。
固定や放置しておくことで良くなりますか:
この靭帯は関節内の靭帯ですので、固定などで再び靭帯の張り具合が元通りに戻ることはありません。緩みが残り、ジャンプやステップの動作を必要とするスポーツでは、復帰しても再び膝を捻ってしまうことが起きます。こういうことを繰り返すうちに、関節面の軟骨や半月板(膝関節内の内・外側ともあるパッキンのようなもので三日月形をしている。クッションの役割と膝を安定させる役割を持つ。)に傷が入ってしまいます。
治療法は:
リハビリでは、膝周りの神経を再教育し筋肉の反応性を回復させ、さらには下腿が前方へ引き出されたり膝が捻れたりしないような動き作り、また再受傷予防のための筋力をつけます。
手術では、緩んでしまった靭帯を縫い直すことはせず、自らの身体の一部から代わりになるものを持ってきて入れ替えることを行います。よく使用されているのは、①薄筋と半腱様筋という筋の腱か、②膝蓋靭帯です。薄筋は大腿を内転させるための筋肉群の一部で半腱様筋は膝を曲げるための筋肉群の一部です。いずれも、膝の直ぐ下の内側にくっついており、その部分より採取して使用します。膝蓋靭帯は膝蓋骨に続く腱です。このうち1/3程度を採取し使用します。①②いずれもメリット・デメリットがあります。
先々のことを考えると手術をしたほうが良いと考えられますが、前十字靭帯が緩くても行えるスポーツ(自転車競技、ランニングetc)もあったり、日常生活も注意していれば問題のないことも多いので、スポーツドクターと術後のことや自分の状況なども含め、きちんと相談して治療法を選択するのが良いでしょう。
患者さん VS 患者様
私が研修医になった頃からでしょうか、一部の病院で患者さんを患者様と呼ぶようになりました。そのような風潮は私が医学生のときにすでに始まっていたかもしれません。学生時の確か内科の授業で教授が、「医療はサービス業だ。診察をお待たせしているのだから、診察室に入ってこられたときには、医師であろうとちゃんと『お待たせいたしました』の一言は言わなければダメだ」と言ったのを覚えています。それは当然だと同感。しかし医療がサービス業であることに間違いないが、サービス業であると言い切るには何となく引っかかった。そう思いながらも、医者になろうとしていたのに医者が大嫌いな私は、「こいつまあまあ良いオヤジやん」と思ったのですが、その後この教授がさらに付け加え、「患者さんは患者様とお呼びしなさい」と言った瞬間、私は少し首をかしげた。今となっては、ほとんどの病院・診療所の受付では患者さんを患者様とお呼びしているようだ。
さて、皆さんは病院へ行き、「・・・様」と呼ばれてどうでしょうか?「・・・様」と呼ばれて悪い気はなさらないでしょうが、「・・・さん」でも別に問題はないのでは?だいたい「・・・様」と言っている病院も、きっと他がそうお呼びしているからうちも(日本独特の自己意思のない行動)といった具合で、本当に心からそう思ってお呼びしているのか疑問である。しかも大抵の病院では呼び方が統一できておらず、受付では「・・・様」とお呼びする一方で、一部の看護師や医師は「・・・さん」であり、また一部の看護師や医師は「・・・様」、ひどい医師になると「・・・さん」どころか「あなた」とか「きみ」と呼んで患者さんとお話ししているのが現状でしょう。確かに受付は治療に関係がなく会計等の事務処理のみであり、医療がサービス業に位置づけされていることを考えると、受付だけでも「・・・様」とお呼びしようとする感覚は分からないでもない。しかしながら、受付で「・・・様」とお呼びしながら、受付の職員は座ったまま患者さんに対応している。本当にこれでいいのでしょうか。なんだか違和感がありませんか。
私個人の考えだが、患者さんを患者様とお呼びしてしまえば、それは患者さんをお客様扱いし、お金を払ってくれてありがとう、良くなっているのにどんどん治療に通ってお金を儲けさせてねということだと思っている。患者様とお呼びする病院・診療所に聞きたい。患者さんが病院に入って来られたら「いらっしゃいませ」と言い、お帰りになられる際は「ありがとうございました」とでも言うのですかと。「・・・様」は相手が自分より上であることを示している。かといって「・・・さん」は、下に見ているのではない。「・・・さん」も敬意を示した表現であるが、下でも上でもない同等なのである。医療はサービスだがお金を儲けるために行っているものではない。飲食や物販などのようにお客さんの贅沢のためのサービスでもない。医療は、我々医師の知識・技術のみならず患者さんと共に治そうと安心・勇気を提供している業態である。そのことに医師はプロとしての意識を高く持っておかなければならず、自分の日々の怠りが患者さんに迷惑をかけることになるのだということを忘れてはならない。そういった意味で私は、自分自身はプロ意識のあるプロフェッショナルであると自負しているし、そのことにプライドを持っている以上、患者さんをあえて上に崇める「・・・様」という表現は使わず、普通に「・・・さん」とお呼びしている。医師が偉そうに上から患者さんを診る必要は全くなければ、逆に患者さんを敢えて患者様と呼んでまで上に診る必要も全くないのである。何度も言うが、治療に入ったときから医師と患者さんの関係は、どちらが上とか下ではなく、同等なのだ。
もう一点、きっと意味もなく患者様とお呼びしている病院・診療所に聞きたい。なぜ医師を含めた全員が共通言語で患者さんに対応しないのですか?医療というものは、医師だけでなく回りの職員とともにチームで成り立つものです。医療資格者だけでなく医療資格のない者も含めて、皆が協力し合って始めて患者さんにベストなことを提供できるのです。であれば、受付も含めて皆が患者さんに対して共通見解でなければならないと思う。一部が「・・・様」とお呼びし、他は「・・・さん」とお呼びしている状態は、患者さんに「我々はチームで患者さんに向き合ってないです」と言っているようなものだ。開業まで、大きな病院で働いてきたが、いつも不思議に思うことがあった。看護師や事務員が患者さんに我々医師のことを話す際に、「○○先生は今手術に入っておられますので、・・・」とか「○○先生が今診察に来てくださいますよ」とか言うのだ。身内のことを第三者にお話しするのに敬語である。まさしく、医師と他の職員が一体でないことを表している。一流企業であれば、このような社員は即刻クビだ。患者様とお呼びする前に、まずはこういったことからやり直さなければならないのではないでしょうか。
私が開業しようと思った理由の一つは、こういったわけの分からない業界で働きたくないと思ったことである。ちょっと古い話しだが、まさに阪神タイガース時代の江本氏が「ベンチがアホやから野球やってられへん」と言って辞めたのと同じ気持ちだ。箕山クリニックでは、職員全員が患者さんを「・・・さん」でお呼びするようにしています。患者さんと同等で向き合わなければという意識を持つことで、受付にもプロ意識が生まれてくるものと考えております。ただ、勘違いして上から物を申したり、またそのような態度をとったりするようなことのないよう、きちんと丁寧・親切な行動をとるよう教育しております。しかし、どうしても直しきれないのは、ときどきトレーナーが私のことを患者さんやジム利用者にお話する際、先生って言ったり敬語を使ったりしてしまうのです。今まで競技現場を中心に働いてきて、ドクターとの関わりが当施設みたいに緊密でなかった影響ですかね。勘弁してやってください。でも皆さん、「・・・さん」と呼ばれることで、職員とフレンドリーに話ができると思いませんか。だって、皆さん不安を抱えて病院・診療所に行くんですものね。いっぱい話ししたいですよね。
第2回スポーツ外傷講義:足関節捻挫
はじめに
足関節の捻挫はスポーツで最も多い外傷(ケガ)で、バスケットボールやバレーボールでは外傷中の約50%が足関節捻挫といわれています。足関節捻挫で最も損傷を受けやすい靭帯は外側の靭帯です。皆さんは今、「あれっ、捻挫と靭帯損傷って同じこと?」って思われませんでしたか。診察していて感じるのは、皆さんが捻挫のひどいのが靭帯損傷と思っておられるようで、捻挫で来院された際に「靭帯が切れた」と申すとびっくりされることです。捻挫という言葉の定義は、「関節固有の生理学的可動域を超える外力が加わることにより、関節包や靭帯など関節支持組織が損傷した状態」となっています。分かりやすくいうと「関節が動く範囲以上に動かされたことによって、関節を安定させている靭帯が切れてしまうこと」ということです。ですから、医者に捻挫と言われても、靭帯が切れていると理解して下さい(但し、切れている度合いは3段階に分類されます)。それともう一点、よく「これは靭帯が切れているのですか?伸びているのですか?」と聞かれる方が結構おられます。実際手術の際に損傷した靭帯を見てみると(足関節の急性靭帯損傷に対する手術は近年あまり行いませんので、他の部位の靭帯ですが)、伸びたようになっています。しかし、これは靭帯線維の一部が切れて伸びたようになってしまっているか、もしくは完全に全部切れているかの違いで、たとえ線維の一部であろうと切れていることに間違いないのです。なので、伸びているという言葉で安心しないようにして下さい。まぁ、医者でも捻挫は靭帯損傷まで行かない軽いものって思っているような人がいますから、皆さん一般の方が靭帯損傷と聞かれて驚かれるのは仕方ないですよね。
解剖
足関節は、底屈・背屈(上・下)の動き以外に、内がえし・外がえしという動きをします。よく起こす捻挫は内がえしによる外側の靭帯損傷です。よって今回は外側のことについてだけご説明していきます。
外側には、外くるぶし(外果と呼ばれ、腓骨という骨の先端にあたる)から下の距骨という骨に向かって、①前方に前距腓靭帯(ぜんきょひじんたい)、②中間部に踵腓靭帯(しょうひじんたい)、③後方に後距腓靭帯(こうきょひじんたい)の3つの靭帯が走っています。
損傷の分類
損傷は、主に①前距腓靭帯と②踵腓靭帯に生じます。
下記の1度・2度は①のみ、3度は①に加え②まで損傷していると大まかに考えてもらっていいでしょう。
①だけの損傷は、全捻挫の2/3と言われており、また①と②の両方の損傷は足関節の靭帯損傷中20%と報告されています。
1度:靭帯の一部の線維の断裂で、関節包は温存されている。
(一般の方が「伸びている」と表現されるのは、これに当たると考えていいでしょう。)
2度:靭帯の部分断裂で、関節包も損傷されることが多い。
3度:靭帯の完全断裂で、関節包の断裂も伴う。
症状
1度:軽度の腫脹(腫れ)が外果の前方(①前距腓靭帯の部位)に起きるのみで疼痛も軽く、歩くのも少し困る程度です。
2度:かなり外果周辺に前方を中心として腫脹が生じます。受傷側に体重をかけるのがつらいですが、ガニ股だと何とか歩けるという状態です。
3度:関節内に出血が生じるため、関節全体が腫れます。外果前方(①の部位)と下方(②の部位)の圧痛(押すと痛いこと)がかなり有ります。歩けますが、松葉杖を必要とされる方が多いです。
治療
1度と2度に対しては、まず手術を行うことはありません。
3度に関しては、中には早期に縫合手術をするべきと言う医師もいるようですが、何度も大きな捻挫を繰り返して慢性的に関節が緩くなってしまっているような方は除き、下記のように治療していくことで良くなっている方やスポーツに早期復帰されている方が多く、最近は手術をしなくなってきるのが現状かと思います。
荷重(体重をかけること):
適切な固定内で体重をかけていくことは何も問題なく、かえって靭帯に伸張を加えずに良いと考えられています。
早期の荷重と可動域訓練(関節の動きを取り戻すリハビリ)は、先々疼痛や筋力低下が少なく、スポーツ復帰が早いと報告されています。
固定:
完全に固定してしまうよりも、足関節の内がえし・外がえしのみを制限し、底・背屈を許可した装具などでの固定を行い関節の動きを出していくことにメリットがあります。
完全固定を行ったグループは、装具で治療したグループに比べ、3ヶ月でスポーツ復帰したのは50%であったとの報告があります。
アスレティックリハビリ:
腓骨筋といって足関節を外側に力を入れる筋肉を強化し、再発を防ぎます。
固有受容感覚といって、関節があらぬ方向へ行かないように、周囲の筋肉をうまく働かせて関節を適切な位置に保持する感覚をきたえます。いわゆる神経・筋の協調を作ります。
これには、バランスディスクなどを利用いたします。
復帰が近づくと、横の動きやジャンプ・着地に対応できるようなトレーニング・動き作りを行い、再発防止を行います。
復帰
当クリニックでの完全復帰(100%のプレー)までの大まかな目安です。
1度:10日~2週
2度:3週~4週
3度:5週~7週
最後に
足関節を捻挫し病院・診療所を受診された際、完全に固定されたりすれば、その医師は新しいことを勉強していないか、診療費を多く取るために必要のない完全固定まで行っていると思ってください(注:例外を除きます)。こういうことが蔓延っているから怖いですね。たかが足関節捻挫と思いがちでしょうが、きちんと治療・リハビリを行っていないと再受傷を繰り返し緩くなってしまったり、痛みを残したりすることとなります。放っておかずにきちんとした病院・診療所に行き、きちんとした診療を行ってください。
日本の医療制度 VS 欧米の医療制度
年内にも混合診療を解禁すると小泉首相が言っている。といっても皆さんからすればよく意味が分からないし、良いのか悪いのかも分からないというのが現状でしょう。混合診療に関しては賛否が入り乱れており、とくに日本医師会は大反対。しかしながら、「反対、反対って言うじゃな~い。でも混合診療にしなければならない状況を作ってしまったのはあんた達ですから~!残念! 医療は営利目的であってはならない!なんて偽善者発言!斬り~!」なのです。皆さんに、この現状の裏を分かりやすくご説明したいのですが、その前にまずは日本の医療制度と欧米の医療制度の違いを知って頂いたほうが良く分かると思いますので、「混合診療」については次回コラムにします。今回は「日本の医療制度と欧米の医療制度」ついてお話致しましょう。
皆さんご存知でしょうが、まずは日本の医療制度を簡単に分かりやすくご説明致します。日本の国民は皆さんが保険診療を受けることが出来るように、社会保険か国民健康保険に加入していることとなっています。簡単に、お勤めの方は社会保険(会社であれば健康保険組合)、自営業の方は国民健康保険と捉えて下さい。社会保険料はお勤め先でお給料から差し引かれており、国民健康保険料は各自で市町村に支払っているわけです。このように保険に加入していることによって、皆さんは診療にかかられても診療費を全額払う必要はなく、病院・診療所には負担率分(多くは3割)だけ支払えばいい事となっています。残りの患者さんが支払わなかった金額は、病院・診療所が毎月社会保険もしくは国民健康保険に請求し、支払ってもらっているのです。さて、このような支払い制度は分かっているが、診療所開設の仕組みなどはよく分からないのではないでしょうか。実は、日本では医師であれば自由に開業できることとなっています。ですから、医師になってからの更なる資格などは関係なく、医師自身に自信があれば専門とする分野や得意とする分野の診療科目を掲げて開業できるのです。「あれっ、じゃあ何故もっと近所にコンビニのようにいっぱい診療所とかがないの?」と思いますよね。法的に開業は自由でありながら、競争を少なくするためそれを抑えて診療所数をコントロールしているのは、実は各地域の医師会であったりするのです。
こういった不可解なことも次回コラムの「混合診療」で説明するとして、他の国の医療制度もご紹介していきましょう。私が留学していたイギリスでは社会保障がしっかりしていて税金がとても高いのですが、そのかわり国立系の病院・診療所での診療費は全員が無料。何て良いのだろうと思うでしょう、しかしながら無料で診療を受けることの出来る国立病院・診療所はいつも満員。CTやMRIの検査は3ヶ月待ちが当たり前、手術なんて1年後なんてこともある。そのうえ、国立病院・診療所が患者さんへの請求が無料なのをいいことに、必要のない検査を行ったり薬を処方したりして、国立病院・診療所がその多大な診療費を不当に国に請求して儲けることのないよう、疾患ごとに行える検査や処方できる薬が決められてしまっているのです。また、国が認めた国立診療所を開業できるのは、全科目を医師になってからも履修し総合的に広く浅く診ることができる医師のみで、国民はまずそういった国立診療所で診察を受けることになっています。そのうえで、診療所の医師が専門の医師に診てもらったほうがいいと判断した際に、始めて大きな国立病院に行くことが出来るのです。このような制度であるため、医師は診療にお金はかけられないし、患者さんはすぐに専門医を選んで診てもらうことができないで、良くならない人がいっぱいいるわけです。そこで、国が関係しないプライベート病院・診療所というのがあり、お金持ちの人は無料ではなく診療費を支払ってまでプライベート病院・診療所で診てもらっているという現状なのです。ただ全くの自費だとすごい金額になってしまうので、そういったプライベート病院・診療所が好きな人たちは、各自で保険に加入しておりその保険で診療を受けるのですが、保険会社から紹介された病院・診療所にしか行けないのが実際なのです。つまり、保険会社と病院・診療所がグルになっているわけです。一見良さそうで良いとこなしのイギリスの医療制度なのですが、唯一良いところを挙げるとすれば、医師が診療にお金を掛けることができないので、少ない検査で診断をつけようと整形外科に関して言えば診察手技を多く持っているということだと思います。だからといって、イギリスの医師が日本より優れているとは思いませんでしたが。あっ、失礼、日本の医師よりは優れていたかもしれませんが、少なくとも私よりは劣っていました(笑)。
では、最後にアメリカの医療制度を説明いたしましょう。アメリカは国が保障する保険は一切なく、皆が各自で保険に入っていなければなりません。なので、保険に入るお金のない人が、万が一病院・診療所に掛からなければならないことがあると、全額自費になってしまうのです。訴訟問題だらけのアメリカですから、極端な話、救急であってもまずは保険に加入しているかどうかから患者さんに聞き、入っていなければ多大な金額が掛かってしまうので、「この治療を行えばあなた生きます。行わなければ死にます。さあ自費ですがどうしますか?」なのです。実に恐ろしい。保険会社と病院・診療所がグルでお互いを紹介し合っているのは、イギリスのプライベート病院・診療所と同じです。また、診療所を開業できるのは、これもイギリスと同じである一定基準をクリアした広く浅く診ることができるファミリードクターなのです。よって、確定診断や的確な治療を受けられるのは遅れがちなのです。
大変長くなりましたが、分かりましたか。日本の医療制度は、誰でも開業できてしまうので大丈夫かと思うところもあるでしょうが、皆さんが自分の意思で病院・診療所を自由に選ぶことができ、すぐに専門的な診療を受けられるというメリットがあるのです。また、一部は支払いがあるものの保険制度がきちんとしていて、診療費が莫大に掛からないというメリットもあります。ただ、あくまで皆さん自身がしっかりと良い病院・診療所を見極めなければなりません。皆さんが賢くなるしかないのです。今回、日本の医療制度を他の国と比べることによって理解していただいたうえで、次回コラム「混合診療」にて日本の医療の裏側を斬り、良い病院・診療所の見極め方も併せてお話しすることと致します。
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